継業して守る、手仕込みの味

「矢ノ目糀屋」の川端夫妻

 「子供の頃のおやつは、おにぎりに味噌を塗っただけのものでした。それがたまらなくおいしくて。」
 昔、味噌は買うものではなく家庭でつくるものでした。現在流通しているものとは違い家庭の味噌は発酵止めをしないため、ご飯に塗っておいておけばその部分が糖化して甘みを増し、小腹に最高のご馳走になったもの。
「実家では普通であったものが、都会では当たり前ではないことを知り、それが暮らしの豊かさだと気づきました。」
 こう語るのは、「矢ノ目糀屋」の川端由美さん。由美さんのご出身は、河北町の隣の村山市。そこで代々続いていた親戚の糀屋を、夫の徹さんとご家族と共に河北町に移住して「復活継業」した四代目。代々の木樽で仕込む「五八みそ」をはじめ、生きた糀やスパイス、特産のイタリア野菜などを使ったこだわりの発酵食品の数々を手がけます。もともと都内で公務員として子供たちの給食を作る仕事に携わっていたお二人。安定した勤めを辞めてでも継承しようと決めた「矢ノ目の味噌」は、他では得難い、ほっとする味噌らしい香りと糀由来の甘味や旨味があり、幼い頃から食べていたその味は心もお腹も満たしてくれる、と由美さんは言います。

 味噌の仕込み日、工房にお邪魔すると、お二人で向かい合い、四日前から仕込んでいた糀を手でほぐしている最中でした。味噌の原料である大豆は、圧をかけながら蒸すことで、クリーミーに仕上がります。蒸してすりつぶした状態でいただくと、まるでこしあんのようなコク。それにお塩と麹を混ぜ込んで、糀を丁寧に敷き詰めた木樽に仕込みます。なかなかの重労働。一度に仕込む量は、二人で作業できる分量だけです。木樽はもちろん、味噌の上に敷き詰める重石も、代々使われ続けているもの。そっと持ち上げると、とろっとしたたまり醤油が滲みます。もし水槽にドボンと入れたら、真っ黒になるくらい、たまり醤油が中まで染み込んでいるのだそう。旨味も一緒に、代々受け継いでいくのですね。
 工房の横は古い蔵を改修したカフェ。発酵食品を使った食事や、甘酒やプリン、ケーキなど、深い味わいのある絶品ばかりが並びます。河北町産の大豆や山形のお米、近所の農家さんのフルーツなど、材料は極力地元産のものを使っています。全て手づくりの無添加無化調。蔵の二階や、県内外各地で、味噌づくりワークショップや講演会などに忙しく飛び回る川端夫妻。昔ながらの発酵食の「豊かさ」を今に伝えています。
※矢ノ目糀屋さんのHPはこちら

【矢ノ目糀屋さんのおすすめ商品】

『五八みそ』:発酵をとめていないため、季節の移ろいと共に旨味を増し熟成する、昔ながらの「育つお味噌」。

『スパイシー・シード』:炒った麹にスパイスやナッツがたっぷりブレンドされた、新感覚食べるスパイスソルト。

『コメノハナ』:オリジナルブレンドの「三五八漬け」の素。山形の在来種「さわのはな」の糀床。浅漬けにもよし、肉や魚の下味つけにもよし、食材にパラパラとふりかけてそのままでも旨味抜群です!