良い土壌を、次世代へ

「まきの農園」さんのイタリア野菜

 収穫間近、秋口の河北町は金色の稲穂が輝きわたります。水や環境がお米や果物の栽培に適し、ユニークな生産者たちによるものづくりで盛り上がりを見せる河北町。ここ数年、新規就農者の移住が増えているものの、地元の方の案内で気づかされる耕作放棄地の存在。一面に広がる田んぼの風景のところどころにぽっかりと空く穴のようです。近年はどんどん増加傾向にあり、町の農業が廃れてしまうという危機感もつのる中、町には頼れる存在もいます。農業ができなくなった土地を何とかしたい時、みんなまず相談に行くというのが「まきの農園」の牧野さん。町内各所の土地を一手に引き受け、バイタリティあふれる仕事ぶりで町の農業の底上げに一役かう存在。「かほくイタリア野菜研究会」理事長、「つや姫マイスター」として勉強会などの活動もしつつ、つや姫に始まる食用米、雪女神や出羽燦々などの酒米25ヘクタールほどと、大豆数種類、そして数十種類のイタリア野菜と、種子で数えると全部で七十種類ほどの作物を手がけています。
(※河北町の米づくりについての牧野さんのお話は、「お米とお酒」を参照)
 取材時の秋口は、もうすぐお米や大豆の収穫で、イタリア野菜も繁忙期にさしかかるという頃でした。

植え付けが済んだばかりのタルティーボ畑には、一万五千株もの苗が整然と並びます。チコリだけでも四種類、カリフラワーなどのアブラナ科が五種類、スティックセニョールにカーボロネロ、大豆も複数品種と、牧野さんの畑はバラエティ豊富。「農家としては同じ品種を大量に植えた方が効率的ですが、河北町の売り方は大きい市場にドーンと出すのではく、人と直接お付き合いして、お店などへ直送する形がほとんど。いろんなリクエストに長く柔軟に応えていけるよう頑張っています」。河北のものを本当に気に入ってくれた人に届ける。買い手のニーズを聞いて、それに合わせて栽培していく。いわゆる「6次産業化」の考え方そのもの。「例えばこの大豆。北娘という品種なんですが、また風変わりで。」大豆の問屋さんから依頼されたという、北海道の品種。食味は大変良いものの、収量性が悪く、生産者に好まれないのだそう。こだわりのお豆腐屋さんが、手仕事でないと固められないような、低タンパクで糖分の多いマニアックな大豆が欲しいということで、牧野さんのところへ相談が来たのです。こだわりや信念を持つ作り手同士がつながることで、他にないものを生み出していくユニークな循環。「誰もやったことのないものは、大体私が実験台になりまね」と、頼もしい笑顔を見せる牧野さん。

 悩む暇もなさそうですが、しいて言えば「良い従業員に出会うのが悩み」とのこと。都会から来る新規就農者は農業に対して自分のイメージが強く、従業員として働きに来る人は少ないのが現状。有機農法を志して就農するという人も多い中、「言葉だけが一人歩きすると、難しいですよね。」除草剤不使用、化学肥料無使用、都会では他に要素がないため、このようなキーワードだけが判断基準になることも。しかし、それはゼロかイチの話ではないのだと、牧野さんの言葉に改めて気づかされるものがあります。牧野さんが身をもって体感することは「作物が健康に育つための条件さえしっかり整えてあげれば、よっぽどな気候変動がない限りは薬はいらないことが多いんです。」大切なのは、「土地柄を見極めて、そこに合った作物を植えること」、そして「根を健康に保つために手をかけること」。恵まれた土地でしかうまくいかない農法もあります。「私にとっては、まずこの町の土壌が荒れ果てないようにしっかり管理し農業を次世代に繋げていくこと。そのためにまず自分の家族をしっかり養うことが重要なんです。」長い視点で土地のことを考え、地に足をつけて、今できる工夫と貢献を最大限にするされている牧野さんの姿は、金色の稲の中でひときわ清々しさを放っていました。(※まきの農園のHPはこちら