皿から畑へ、畑から皿へ

元シェフの創る「くだもの楽園」

 「くだもの楽園」は、家族経営の小さな農園。ステビア農法にこだわって栽培したおいしい果実と、手搾りのジュースなどを販売しています。オーナーの生稲(いくいね)さんは四児の父で、元イタリアンのシェフという経歴の持ち主。河北町出身の奥様の実家を継ぐ形で就農されました。「かほくイタリア野菜研究会(イタ研)」の理事でもあり、シェフ時代の知識と経験を生かして、イタリア野菜の食べ方、活かし方を皆に伝える大切な存在。町内のイベントなどでは、自作のピザ窯で焼いたピザを振る舞うサービス精神の持ち主。「彼の作った桃のスイーツピザは絶品」と絶賛されています。
「おどろき」の収穫
 夏の終わりに伺うと、畑にはいつもと一味違う緊張した空気が漂っていました。ちょうど桃の収穫時期。数日前に突如の大雨。雨の後、湿度が上がった温室のような状態は、桃の成熟が急激に進んでしまいます。追熟の度合いが大きい桃は、食べごろになってから出荷できるまで一週間もありません。「今すぐ食べるとおいしい」という段階までくると売り物にならないことも。選別し、トラックで作業場に運び、サイズ分け、箱詰め、空になったコンテナを荷台に積んでまた畑へとんぼ返りを一日中繰り返します。一年かけて丹念に育て、収穫は一瞬のスピード勝負。

「果実は待ってくれないから」。会話をしながらも、流れるような鮮やかな手捌きは止まることはありません。この日収穫していたのは、全国的にはあまり流通しない、信州以北で多く栽培される桃品種。大玉で、薄皮も果実と一緒に食べられて美味。何より、完熟してもカリッと硬いのが特徴。桃好きにはもちろん「桃はそれほど」だった人も虜になるみずみずしさと独特の歯触り。

自然にあるがまま」をどう活かすか
 生稲さんの果物やハーブは、シェフ目線が活き「デザインされた味」と評判で、数々の食通を呻らせています。こだわりを持つシェフにも人気で、飲食店の得意先も多く抱えます。果実や野菜は味をデザインできるものなのか、どうやって味をコントロールするのか尋ねたところ、「そんなかっこいいモンじゃないよ」と生稲さんは笑い、質問とは全く逆の発想であることに気付かされました。「市場に出るとB品と言われるものが、料理人からすればピンポイントで欲しかったりもするんです。例えばりんごであれは、完熟する少し手前で早もぎして酸味や青臭さが残っている状態をキャラメリーゼすると、素材の風味もキャラメルの甘さも、どっちも生きるじゃないですか。」

さくらんぼの「佐藤錦」のように味が完成されている果物は、何もせずそのまま食べるのが一番いい。でも食材として使う場合は、一つの味覚が際立ったものの方が、調理法と素材の良さが両方生きる。収穫の初めから終了までさまざまなステージで、作物にはさまざまな味わいがあります。そんな自然のあるがままの恵みと、シェフのニーズの両方を熟知し、タイミング良く提供することで畑とキッチンを橋渡ししたい。それが生稲さんの願いです。「例えばルッコラとか、野花系の野菜の花ってすごく綺麗でおいしいんですよ。その時の一瞬しかないので、流通もしない。そういうのを提供するとすごく喜ばれます。」
 市場では、果実は糖度が低い果実は歓迎されにくく、花の咲いた野菜は売ることすらできません。全部が贈答品にはなり得ないのが自然。それを規格外として廃棄してしまうか、あるいはその生かし方を考えることで新しい食の楽しみにつなげるか。生稲さんの農業のテーマは後者です。自然の恵みを余すところなく楽しもうとする生稲さんならではのアプローチ。自然を知り、寄り添う姿勢が、畑からお皿へ、新たな風を吹かせます。
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