河北町で二百年以上営まれる老舗酒蔵「和田酒造」。全国新酒鑑評会での受賞は十八回にのぼり、銘酒「あら玉」は、国際サミットでも振る舞われるほどの実績を持ちます。オートメーション化が進む酒蔵に、あえて逆行した手造り仕込みが、和田酒造のこだわり。お米を蒸してから冷ます作業に始まり、各工程に手作業を取り入れ、赤ちゃんを育てるがごとくお酒を「育て」ます。夜酒蔵を見回って麹の香りを嗅いで麹の生育具合を体感し、味見をし、手で触り、状態を目で見、五感をフルに使って麹菌と「会話」することで、今ここにしかないお酒がつくれるのです。「手間暇も力作業も多く、蔵人には苦労をかけていますが、本当にお酒が好きできてくれている人ばかりで、わりと楽しんでくれています。」と語るのは、九代目ご夫婦の茂樹さんと弥寿子さん。お酒は、同じ原料で造っても同じ味にならず、造る人と場所、年によっても全く味が変わります。「大変でも手をかければその分味に反映されるというのを和田酒造の蔵人たちが気づいているので、河北町ならではの味が出せているのだと思います」。まさに「人間の五感でしかできない酒造り」を続けたいという信念を、二百年変わらずに守り続けているのです。
ところで、お二人とも、微生物の「ヘンタイ」だと町内では評判です。小さい頃から菌には興味があったという弥寿子さん。パンについたカビなど、生活の中で見る「菌」をよく観察していたそう。お米と菌が出会うと時々によって異なる反応を見せ、様々なお酒の味と香りを造っていく。酵母の配合でもちろん味は変わり、同じ配合でも年によっても味が変わる−お酒づくりは何年やっても新たな発見があり、いつも「ほっとしたり、びっくりしたり」と弥寿子さんは言います。
酵母の配合を決めるのは、主に茂樹さんのお仕事。「あら玉prototype」は、わずかに炭酸気があり、爽やかな甘みもある「ライスワイン」に仕上がって大好評を得た試作商品です。茂樹さんの想定をかなりのレベルで再現できた逸品。試作では、想定通りにならなかった時が来年への課題となり、新しい発見が生まれます。「相手が生き物と言うところが面白い」と茂樹さん。
実は、茂樹さんは沖縄のご出身、和田酒造に婿入りする形で、河北町に移住しました。移り住んで今年で十五年。町の人に優しく受け入れてもらっていると感じてきた日々。
「イタリア野菜の栽培を始め、異業種がまとまって街を盛り上げていこうという良い循環のある河北町。それに参加するのがすごく楽しいです。」 実際、和田酒造の酒粕は、「くだもの楽園」でイタリア野菜の肥料として使われたり、「まきの農園」でも田んぼに戻し新たな酒米の栽培に繋げられています。「パティスリー・デ・ジョワ」の酒粕入りパウンドケーキも人気。町内のつくり手同士の「循環」が自然と回転しています。「自分だけが良いという人は少なくて、町内の不思議なところでいつもみんなが誰かのことを気にかけているんです。みんなそれぞれにオタクで、クセが強いですけどね。(笑)」
米生産者、杜氏、蔵人もすべて地元の方々、生産量のほとんどが地元消費。都内ではほとんど流通していない掘り出し物の良酒が揃う老舗、和田酒造の魅力を少しでも体験いただけるよう、かほくらしではコース料理とのペアリングや、試飲、立ち飲みサービスも行っています。
※和田酒造のHPはこちら