お米とお酒 その一

月山の雪解け水からなる奇跡

二つの川に面した水の豊かな土壌
 河北町は、「寒河江川」と「最上川」という二つの川が交わる水の豊かな町。歩きながら田んぼの水路を見ると、驚くほどに澄んでいるのです。実はこの水のきれいさは、全国的にも奇跡と言えるほどの土地的な好条件から生まれるもの。そんな水からできるお米とそのお米からできるお酒は、日本一と言っても過言ではありません。河北町のお米とお酒は一体何が特別なのか、「つや姫マイスター」の牧野さんに伺いました。
 
河北町の奇跡 その一「水」】
 河北町のお米は、月山と朝日連峰から流れてくる「寒河江川」を水源にして作られています。田んぼには通常、「用水」と「排水」という二つの水路がありますが、河北町の場合、用水は「寒河江川」を水源に、そして「排水」は「最上川」へと、二つが完全に分離されています。全国どの地域に行っても、そのほとんどは、どこかしらの地域が排水している川から水を汲み上げて水路に流すもの。例えば庄内地方で水源となる大きな川といえば「最上川」。それはつまり河北町の排水が流れる川。しかし、河北町はちょうど月山の隣に位置し、誰も使っていない雪解け水をそのまま水路に流せるのです。

これは、日本全国まわってもなかなかないくらい恵まれたこと。生活排水が流れる川には、窒素や栄養が多く、それが余計な肥料となってお米のタンパク質が高くなり、食味に影響が出ます。河北町は盆地で土地条件も良く、水も良い。高品質な米がたくさん取れるのは、まさに天然の奇跡なのです。
 山形県を代表するブランド米の一つが「つや姫」ですが、河北町でも栽培が盛ん。「つや姫」は、品質を保つために認証機関による「特別栽培」が取り決められており、どこでも栽培できるわけではありません。県内でも栽培できる場所がマップ上で指定され、慣行栽培の半分以下の農薬と化学肥料にとどめるなど、厳しいルールが規定されています。そんなレベルの高い「つや姫」の産地の中でも、河北町の水のアドバンテージは優れたもの。ぜひ河北町産の「つや姫」をご賞味ください。

河北町の奇跡 その二「人」】
 土地的好条件の他に、生産者たちの取り組みも、なかなか類を見ないのが河北町の強み。二百年ほどの歴史を誇る老舗酒蔵「和田酒造」は、地酒づくりのリーダー的存在。前会長和田多聞氏の声かけにより、酒蔵の勉強会にお米の生産者たちも集うという連携が町に根づいているのです。

ここで、酒米のお話を少々。最近、「二割三分」や「三割九分」というように、日本酒の精米歩合を表す文字をよく見かけますが、なぜお米をさらに削るのか、ご存知でしょうか?お米の粒は表面になればなるほどタンパク質が多くなりますが、日本酒にとってタンパク質は雑味となります。タンパク質をできるだけ排除することで、フルーティな、研ぎ澄まされた味になるため、表面のタンパク質の削り度合いで味が変わるのです。また、酒造りに適したお米の条件として、「心白(しんぱく)」がしっかりあることが欠かせません。「心白」とは、お米の中心にある濁った部分のこと。麹菌は「心白」が大好きなので、一度お米にくっつくと、米粒の中央に菌糸を伸ばして「心白」を探します。「心白」がしっかりないと、菌糸が入らず、酒米が均一に発酵しないのです。米の品種によって、「心白」の大きさは異なるため、どの品種をどの程度削ってお酒に仕上げていくかが重要になります。米のつぶをタンパクを抑え、何度も精米に耐えられるように砕けない硬いお米に均一に仕上げ、かつ心白をしっかり入れるというのが米生産者の仕事。勉強会や品評会などの機会に酒造と連携しながら、少しずつ稲作の技術を磨いてきた、それが河北町の歴史なのです。(つづく)