河北町産ナチュールワインの誕生

夢にあふれる農家のエース、宇野さん

 ほどよい野性味と、スッキリしたのどごし。素材の味を引き立てる爽やかな微発泡。今年完成した河北町産オリジナルワインは、ぶどう本来の野生酵母だけで発酵させ、自然の味わいを生かしたデラウェア・ペティアン・オレンジワインとマスカット・ベリーA・ペティアンナチュール。今、日本で最も熱いナチュールワインの第一人者、「イエローマジック」の岩谷澄人氏に監修いただきました。かほくらしのレストランへも現地から直送し、サーバでの提供が大好評中!
 作り手自らが売り方まで見据え、生産者が一丸となってさまざまな取り組みを進めている河北町。そのうちの一つが、ナチュールワインづくりです。このいわゆる「6次産業化」の話を聞いて、なるほどなと思ったという若き農家のエース、宇野実さん。ワインの原料であるデラウェアの生産を一手に引き受けています。ひと昔前は、デラウェアはお仏壇に備える果物として需要が高かったもの。河北町で作られていたのも、もっぱら食用のものでした。最近では仏壇需要は激減。これからは、ニーズに合わせてモノを作っていかなくてはいけない。そこからが試行錯誤の始まりでした。

 昨年八月の終わり。収穫間近の葡萄畑にひとり、宇野さんの表情はやや曇っていました。そのちょうど数日前、かほくらしのスタッフたちが研修で農園を訪れた時には、ふっくらキラキラとした葡萄の房々にみんなでシャッターを切ってばかり。今年のワインの出来が楽しみだと話していたそのまさに翌日、大雨が降り、実が割れてしまったのです。「ここにきてこんなことになるとはー」。被害のあった房の数はおそらく二万以上。宇野さんは、割れてしまった部分をハサミで切り取る作業の真っ最中でした。突然の雨はどう防げば良かったのでしょうか。「雨が続くようなら、地面に溝を切ってあげて早く水が抜けるようにしたり、傘をかけたり、対策をしないと」。河北町がワインづくりを始めてから、思わぬ災難やハプニングを経て、少しずつ技術が磨かれてきました。ワインをおいしくするぶどうとは?味になるのはぶどうのどんな部分なのか?毎日が勉強と研究の積み重ね。例えば食用のデラウェアは、皮が薄く種のないものが好まれますが、おいしいワインになるのは種があり、皮が厚いもの。食用とワイン用では作り方も変わってきます。「例えばこういうちっちゃい葡萄はうまくなるんですよ」。宇野さんが差し出したのは、「単為結果」と呼ばれる種の無い小さな粒の実。思わぬところがワインのおいしさにつながるということも体感してきました。

 子供の頃から葡萄畑を走り回っていたという宇野さんは「宇野農園」五代目のオーナー。生まれも育ちも河北町です。「若い頃は音楽や、好きなことをやって生きてきた」という宇野さん。しかし「気がつけば父母から農家を継いでいた」のだそう。今ではデラウェアやシャインマスカットをはじめとするぶどう複数種、桃、さくらんぼ、そしていつかワインと一緒に提供したい、ヘーゼルナッツなど、畑には閑散期がないほど多くの作物を手がけています。土地×時間×労力を余すところなく、いかに生産性とおいしさを最大化するか、毎年が挑戦です。「戦略を練ってその結果がその通りに返ってくる。自分の頭で考えたことが実となるところが農業の魅力です」。農業の楽しさを語る宇野さんは、畑の中でキラキラとした笑顔を見せてくれました。宇野さんの夢は、ストーリーのあるギフト商品を作ること。例えばぶどうとワインをセットでギフトにして、河北町のぶどうを丸ごと味わってほしい。「もし、ワインラベルのどこかに自分の名前なんかがちょっと入っていたら、もう最高ですね!」
 収穫直前の雨の被害は、町内の様々な人が畑を手伝いに訪れてくれたことで乗り切ることができ、無事に出荷できました。これからも進化し続ける河北町ワインをぜひお楽しみに!